今回の作品のタイトルは「通過するもの」になりました
由比という町はなんといってもさくらえび・しらす漁の町でして
漁網の編み方を作品に取り入れたいと思った際に、さくらえび用の網を見せていただいた。
その網ははじめは大きく編んであって、だんだん編み目が小さく細かくなっていく。
最初は大きな魚が、最後は小さな赤ちゃんのえびが通り抜けられるように
編み目を作っているのだそうだ。
網の目の大きさは、とらないものの大きさである、というお話を聞いた。
その話を聞いた時に、これまで私は糸や、糸に溜まるもののことを考えて作品を作ってきたけれど、糸ではない部分や、糸を通過していくもののことに、はじめて意識が向いた。
また、会場の原藤商店は旧東海道沿いに建っており、
目の前の道は安藤広重の時代から、多くの人々が行き交っていたまさにその道で、
現在も東海道ウォーキングなどで多くの人々が通り過ぎている。
それをこの江戸時代に基礎が造られた建物の中から眺めていると、ふと不思議な気持ちになる。
流動する横軸と、層となった時間の縦軸が交差する場所。
目には見えないこの網を通過する様々なもののために、
大小の編み目を編んだ。